カウンター
since 2010,10,02

1部3500円の「号外」



 2015年9月、集団的自衛権の行使を可能とする安保法案が参議院で可決・成立した。本法案についての賛否・評価についてはあちこちで行われていることなので、それについてはとりあえず置くとして、ここでは号外の話。

 

 日本のすべての法律は、国会で成立して即効力を発するのではなく、「公布」され、その後「施行」されて効力を発する。「公布」とは、広く一般国民に対して知らせる、というような意味だが、日本の法律の場合、『官報』という政府発行の新聞に掲載されることを以て、「公布」という。要は、その新聞を読んでいようがいまいが関係なく、『官報』に掲載したことで、「国民に対して法律を知らせましたよ」ということらしい。


 『官報』という新聞は、それ自体は1883(明治16)年創刊で今に至る、比較的歴史の長い新聞で、発行は日刊。本紙のほかに「号外」「特別号外」「政府調達」などがある。

 このうち「号外」は、ほぼ連日のように発行されていて、本紙(32ページ)に収まりきらない内容を、「号外」として出している。したがって、号外が本紙より分厚くなることも珍しくない。

 「特別号外」は、巷で言うところの号外のようなもので、臨時に何かあった時に発行される一枚刷りのようなもの。といっても、ほかの日刊紙のような大事件やニュースで出るものではなく、例としては、改元、皇室慶事などのほか、北朝鮮に対する制裁発動(2006年)なども、その内容が官報「特別号外」で公布された。

 これらはすべて、無料配布はなく、全国の官報販売所などで購入する事ができる。


 さて、この安保法案は9月30日付の官報に掲載された、というニュースが、各種メディアで報道された。ということで、インターネットでチェックしてみたところ、安保法は同日付の官報号外に掲載されているとのこと。まあ、これは想定通り。ということで、一部購入。

 ところで、官報の値段であるが、2015年10月現在、一部売りで本紙(32ページ)が一部税込140円。号外に関しては、ページ数によって異なる。


 届いた官報がこれ。第三種郵便ではなく、佐川急便で送られてきた。



 見るからに分厚い官報であるが、なんと13分冊、総ページ数が776ページもある。

 気になるお値段であるが、前述の本紙140円に対し、本号外は3500円!

 776÷32=22.25≒小数点以下切り上げて本紙25冊分として、

 140×25=3500円、ということなのだろう。


 官報は、土日祝日(より正確にいえば、「行政機関の休日に関する法律(昭和六十三年十二月十三日法律第九十一号)」で定める、行政機関の休日)は休刊なので、たった一部で一カ月分の本紙に相当するページ数と料金がかかるわけだ。いくらなんでも高すぎるのではないか?

 それでも、それだけ条文の量が多い法律であるならば、まだ理解できる。今回の安保法案の場合、全部で11の法律からなっているわけだから…と思って中を見ると、776ページのうち、安保関連はたったの17ページ。冒頭の目次と、「法令のあらまし」を加えても、24ページで終わっている。13分冊の1冊目、その約3分の1で終了というわけだ。残りは、安保とは関係のない各種政令・省令などがズラリ。なおこの日、官報は号外が2種類出ているが、安保掲載以外のもう一つの方は、値段が420円。極端である。


 3500円に、送料が350円加わって、請求書記載の金額は計3850円。普通の日刊紙の1か月分の購読料に匹敵する金額である。号外一部で3500円、ましてや、国民の関心が高い安保関連法掲載の号外で。いくらなんでもあんまりではなかろうか。


 いくらネットで無料で読めるご時世とはいえ、官報掲載によって公布されるのが法律である。その法律が掲載された官報の紙面は、タダとは言わないまでも、本来は手頃な値段で人々の手に入るものでなければならない筈だが、3500円という金額は、手軽に手に取れる金額だろうか。同日付で掲載しなければならない内容がたまたま重なったのなら、せめて分割するとか、やりようはいくらでもありそうなものであるが、たった17ページに3500円も請求させる状態を見ると、批判の多い安保法、わざと読ませないようにしたのではないか、と勘繰りたくなる号外である。

 

 


 

トピック一覧へ戻る               トップへ戻る

 

 




概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
© 2010 小林近現代資料文庫